中小企業の「暗黙知」を生成AIで継承 ベテランの判断基準を残す3つのステップ

このコラムでは、「中小企業の生成AI活用」に関する取材メモに基づき、実務者の視点から取り組みの方針をまとめていきます。
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人手不足や従業員の高齢化が進む中小企業にとって、熟練したベテラン技術者や社員が持つ技術や知識を次世代へ引き継ぐことは、共通の課題となっています。ものづくりの現場で職人が蓄えてきたノウハウ、ベテランの営業担当者だけが持つ営業先やセールスの技術‥。これらが組織の財産として仕組み化できるかどうかは、事業の成長戦略を左右するでしょう。
マニュアルや設計書には残りにくい、こうした独自のノウハウ、すなわち「暗黙知」の継承は、簡単ではありません。生成AIを活用し、ベテランが「何を見て、なぜそう判断したのか」という判断基準を抽出・言語化できれば、個人の経験に依存していた知識を、組織の共有財産として残せる可能性があります。
ポイントは、AIに単に情報を蓄積することではありません。ベテランが長年の経験で身につけた「判断の物差し」を、再利用できる形で蓄積していくことにあります。
マニュアルだけでは継承できない「暗黙知」
多くの現場では、業務マニュアルや設計書といった「形式知」のデジタル共有が進められてきました。
ですが、それだけでは、「若手の即戦力化」は容易には実現できません。マニュアルは汎用的な手順であり、最も重要な「なぜ、この場面で、その選択をしたのか」というベテラン独自の「判断の物差し」は、言語化されていないからです。「なにか違う」「ここが危ない」といった熟練者の直感も、そこには含まれるでしょう。
この状況が放置されれば、経営リソースが特定のベテランに属人化されたまま、技術承継のタイムリミットを迎えることになってしまいます。
生成AIで「情報」ではなく「判断基準」を残す
この課題への一つのアプローチが、生成AIを用いたナレッジマネジメントです。
AIを単なる文章作成や情報検索のツールとして使うのではなく、熟練者が仕事の中で用いている「判断基準」を抽出し、再利用できる形にするための基盤として活用するのです。
ある大手メーカーのグループ会社は、ナレッジマネジメントシステムの本格運用によって、業務効率化や大幅な工数削減に成功したそうです。この会社の幹部は、
"「事業競争力に資するナレッジとは、情報だけではなく、設定や判断の基準。これを再利用できる形で蓄積していかなければならない」"
と指摘しています。
「ベテランはなぜ、そう判断したのか」までを含めて、組織に残すことが、重要になるわけです。
「なにか違う」、「ここが危ない」。こうした直感や、文脈的な判断基準を、AIと人間との協働プロセスによって明文化し、組織の共有財産へ変えていく必要があります。
中小企業が生成AIで暗黙知を残す3つのステップ
では、中小企業がベテランの暗黙知をAIで形式知化し、実際の業務で活用していくにはどうすればよいでしょうか。
大きく3つのステップに整理できます。
日常的なフィードバックを可視化する
ベテランに、最初から「あなたのノウハウをすべて言語化してください」と求める必要はありません。若手社員が、資料や業務成果物をベテランに確認してもらい、アドバイスを受ける際の「やり取り」そのものを、テキストやチャットツール、音声で記録します。
重要なのは、修正結果だけではなく「なぜ修正を求めたのか」も聞き取ることです。
その理由の中に、ベテランが経験を通じて身につけた判断基準としての暗黙知が含まれているからです。
社内基準と外部の評価基準を組み合わせる
社内の「らしさ」や独自ノウハウといった内側の基準だけでなく、信頼性や専門性を重視した外側の評価軸も、AIにインプットします。
社内独自の判断基準と外部の評価基準を組み合わせることで、「自社の品質基準に沿ってチェックするAI」の構築につなげます。
AIに定型作業を任せ、人間は最終判断に集中する
すべての判断をAIへ移すのではありません。誤字脱字や明らかなルール違反などの定型作業は、AIに任せてしまいます。それに対して、論理の飛躍や炎上リスクなどは、「AIと共同で考える」ことにします。
その上で、人間であるベテランや経営陣は、数値化できない感性や意思決定に集中するのです。「リスクを背負ってでも、尖った表現や技術的挑戦を残すか」といった内容です。

「形式知+暗黙知」が企業独自のナレッジに
ナレッジ基盤クラウドサービスを展開する企業の幹部は、「平均的な情報はAIで抽出しつつ、そこにベテランの暗黙知が組み合わさることで、その会社でしか作れないイノベーションが創出できる」と述べています。形式知の活用と、暗黙知の形式知化の両輪を回すことが重要だということです。
AIは、導入すること自体が目的になるのではありません。重要なことは、これまで個人の経験や感覚に依存していた判断を「言葉」にし、次の世代が利用できる組織のナレッジとして残すことなのです。
中小企業では人員が限られています。その環境で持続的な成長を実現するためには、AIを活用して「ベテランの頭脳」を組織に定着させることが重要になります。
その第一歩として有効なのは、自社のエース社員が「日々の業務で何を見て、どう判断しているのか」という観点を集め、言葉にすることでしょう。
(HUB-CONNe編集部)






