事業承継の実相(下)最大の問題は承継後に 跡継ぎから変革者へ
後継者対策は、特に企業規模が小さいほど、進まない現実がある。
ある産業支援機関の担当者は明かす。「事業承継やM&Aは、今なおマイナスイメージが強いです。セミナーをやっても集客に苦労します。参加したら『あそこの会社は後継者がいない』『買われる』と陰口を言われることを恐れているためです」
数年ほど前に大々的に報じられた「ルシアン事件」などの影響も、少なからずある。投資会社であるルシアンホールディングスが、全国の中小企業37社を次々とM&Aで買収した上で、買収後に資金だけを抜き取り、企業を放置・倒産に追い込んだ事件だ。こうしたトラブルは、中小企業経営者に、M&Aへの深刻な不信感を植え付けている。
また近年、取材先の多くが「夕方になるとM&A仲介会社からの電話営業が鳴りやまない」とこぼす。後継者不足に悩む中小企業を狙った過剰な営業活動が横行しており、経営者の間でM&Aへのイメージが悪化したままだ。
知識、経験、人脈を受け継ぐ
筆者個人としては、親族内承継や従業員承継の方が比較的うまくいっている感触があるが、最大の問題は承継ではなく「承継後」にあると考えている。息子にせよ従業員にせよ、継いでから社長としてやっていけるのかという問題だ。
経営者としての知識や経験、人脈を先代からいかに引き継ぎ、育てていくか。承継後の経営力強化こそが、事業承継成功の本質的な課題なのだ。
実際、取材をしていて感じるのは、運よく息子が事業を継承したものの、自社の決算さえ把握していなかったり、経営計画も立てていない会社が驚くほど多いことだ。
逆に優秀であっても、今度は理念や先代や創業者の思いまで引き継いでおらず、既存の取引先や人間関係を軽視するあまり、信頼を失った会社もたくさんある。
育成支援は「面」へ
後継者をいかに育てるか。この課題に対し、国も動き始めている。
中小企業庁主催の「アトツギ甲子園」は、2025年で5回目を迎えたピッチイベントで、39歳以下の後継者を対象に、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競い合う。
参加者は自らの家業をリブランディングし、未来のビジネスモデルを提案する。単なる「跡継ぎ」ではなく、変革者としての後継者像を示す取り組みだ。
後継者不足の解消には、マッチングや相談支援だけでなく、次世代経営者を計画的に育成する仕組みの構築が不可欠だ。国は後継者育成に本腰を入れ、面的な支援体制を構築すべき時期に来ている。
事業承継は単なる「社長の交代」ではない。企業が培ってきた技術、ノウハウ、取引関係、そして雇用を次世代に引き継ぐ、地域経済の根幹に関わる課題だ。
支援体制の充実で「入り口」は整いつつある。今後は後継者育成という「出口」をいかに広げるかが、事業承継問題解決の鍵を握る。
(総合情報誌「ニューリーダー」で連載中)



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