「今を乗り越える」だけで生き残れるか 選ばれる勝ち筋を考える
静かな廃業が広がる状況の中で、最近取材していて気になることがある。中小製造業の経営者の多くが「今を乗り越えれば」と口にするのだ。
同業者が相次いで廃業しているため、残った会社に仕事が集中する。いわゆる「残存者利益」を期待しての言葉だ。
「いずれ仕事は来る」は正解か
確かに、競合が減れば受注は増える。それは市場の原理として間違いではない。
しかし、だからといって「いずれ仕事はやってくる」という下請け体質のままでは、残存者利益は享受できないだろう。発注元も廃業や統合が進む中、ただ待っているだけでは声がかからない時代になりつつあるからだ。
無論、残った企業同士でも競争がある。そのため、「選ばれる企業」を目指すことは不可欠だ。
取材を続けていると、お客さんが常に絶えなかったり、残存者利益を享受できたりする町工場には、いくつかの共通点があるように思える。一つは、当たり前であるが、尖った技術や製品を持っていること。もう一つは、製造業をサービス業として捉えている企業だ。
「製造業はサービス業」
例えば、亜鉛めっき処理などを手掛ける高村工業所(神奈川県大和市)は「めっき業界のコンビニ」を実践する。午前6時から午後10時まで稼働。特急や当日の依頼であっても受け入れられるよう、態勢を整える。
「夕方に預かって朝イチで納品することも可能です」と高村将名社長。また、たとえ少量の依頼であっても、引き取りから納品までを原則「訪問」で行っている。部品1個からでも引き取り、完成後は届けてもらえる。時間が決められている宅配便よりも、お客さんにとって短納期で済む、という理由だ。
このほか、超特急対応の場合、稼働時間内にお客さんが持ち込み、数時間待ってもらえれば引き渡せることもあるという。夕方以降に持ち込んで翌朝引き取ることも可能だ。「めっき工程にかける時間が短くなれば、お客さんにとっても、短納期化につながります」(高村社長)。こうした顧客重視の試みで、取引先を増やし続けている。
技術の上に重ねる価値観
金属プレス加工の光製作所(神奈川県綾瀬市)も「製造業はサービス業」を前面に出す。
フードサービス業界出身の丸山裕司社長が事業承継して20年余、売上高は3倍に成長させ、経済産業省の選定する「地域未来牽引企業」にも選ばれている。
同社の場合、見積もりは翌日回答を徹底し、納品時は「箱を開けて"きれいだね"と言わせる」水準を追求する。製品の品質だけでなく、梱包や納品対応まで含めた「顧客体験」を重視する姿勢を貫く。製造業の外から来たからこそ見えた視点が、同社の成長を支えてきたといえる。
「今を乗り越えれば…」という言葉の先には、何があるのだろうか。残存者利益は待っていれば降ってくるものではない。取材先で見てきた元気な町工場には共通点がある。技術力の上に「サービス」という武器を重ねていることだ。
納期対応、顧客体験、きめ細かなコミュニケーション─。いずれも巨額の投資なしに、明日からでも実践できる。製造業というと、つい技術や設備に目が向きがちだ。しかし、取引先が求めているのは「困った時に頼れる存在」なのである。
廃業の波は止められないかもしれない。しかし、その波の中で生き残る企業は、技術だけでなく「この会社に頼みたい」と思わせる力を持っている。
残存者利益の先にある本当の勝ち筋は、ものづくりの現場にサービスの発想を根づかせることではないだろうか。今こそ変革するときだと強く思う。
(総合情報誌「ニューリーダー」連載中)






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