求人難の現場から(下)従業員の未来に寄り添う 育成の成功例は
独自の採用戦略で異彩を放つ中小企業もある。その一つが、相模原市で水道設備業を営む小池設備だ。同社は採用活動において「最短6年で社長に」という文言を掲げている。
背景には、日本全国で水道工事業者の数が減少しているという現状がある。地方では後継者難を背景に廃業が増え、地元の建設会社や材料メーカーの一事業部として吸収されるケースも少なくない。
「弊社で技術を身に付けて一人前となった後、出身地で独立してほしいという思いを込めています」と、小池重徳社長は語る。水道工事業では6年も経てば一通りの仕事がこなせるようになることから、この期間を設定したという。
人材育成は将来の事業承継対策
興味深いのは、この取り組みが単なる人材輩出にとどまらず、業界全体の事業承継問題の解決にもつながっている点だ。実際に、水道工事業者だけでなく、リフォーム業者や電器店の2代目、3代目といった人材も、武者修行のような形で同社に入社している。
先般も、6年間勤務した元社員が地元の大阪に戻り、祖父が経営する水道工事会社を継いだ。こうした事例が周囲の従業員にも良い刺激となり、社内に好循環が生まれ始めているという。
同社のユニークな取り組みはこれだけではない。3カ月に一度、丸一日かけて若手社員と「夢会議」と名づけた会議を開催している。
この会議では、小池社長がファシリテーター役となり、各社員が自身の抱いている夢を発表、実現に向けて全員で議論する。夢はプライベートでも仕事でも何でもよく、数の制限もない。
「本人の夢をつぶすのは簡単です。『お前には無理』の一言で終わります。しかし、夢を社員全員が知っていて、応援するようになれば、社内の雰囲気は変わります」。実際、「夢会議」を導入してから、社員のモチベーションやチームワークが、明らかに変わってきたという。
社員に合わせた人材育成
もう1社、採用と定着の両面で独自の工夫を凝らす企業として、締結部品を製造販売するサイマコーポレーション(神奈川県藤沢市)を挙げたい。
同社は、いわゆる「御用聞き営業」を一切行わない。下請け体質が色濃く残る中小製造業にあって、受注生産よりも自社オリジナル製品の開発に力を注ぎ、ねじ製品のブランド化に成功してきた企業である。
藤沢の本社に勤務する従業員のうち、半数以上が女性だ。海外営業や品質管理など幅広い部門で活躍し、中には2カ国語、3カ国語を操る社員もいる。
人材確保に苦労する企業が多い中で、これほど女性を中心に人材が集まり定着している背景にあるのは、柔軟な働き方の導入だ。
同社の場合、勤務日や勤務時間は一人ひとりの事情に合わせて決められる。「人を集めようとしたら、会社の都合に人を合わせるのではなく、本人の都合に会社が合わせないと難しいです。どの会社も勤務形態をフレキシブルにすれば、人は集まり、定着も進むと思います」と斎間孝社長は話す。その言葉どおり、同社でも退職者がほとんど出ていない。
小池設備が「育てて送り出す」ことで若者の未来を開き、サイマコーポレーションが「働き手の事情に寄り添う」ことで人材の定着につなげているように、人材難の時代を乗り越える中小企業には共通の視点がある。それは、会社側の論理だけでなく、働く一人ひとりの人生設計や生活リズムをどこまで本気で尊重できるか、という問いである。
単に「人手が足りない」と嘆くだけでは何の解決にもならない。自社の存在意義と働き方を改めて見つめ直し、働く人の未来に寄り添う覚悟を持てるかどうか。そこにこそ、中小企業がこれからの時代を切り拓くヒントがある。
(総合情報雑「ニューリーダー」で連載中)







