広がる”静かな事業撤退” 葛藤の果てに‥倒産件数の7倍超
これまでも触れたが、ここ最近は取材先の廃業が絶えない。長年にわたって取材してきた経営者から「閉めることにしました」と聞かされるたび、胸が詰まる。最盛期に取材した時のことを思い出すと、なおさらだ。
受注が好調で設備投資に踏み切った時期、新しい加工技術に挑戦していた時期…。あの頃の熱気を知っているだけに「廃業」という言葉を聞くと信じられない気持ちになる。
優良企業も「体力あるうちに」
「このまま続けていても製造業には将来はない。だったら土地が高く売れるうちに廃業するほうが得だ」。以前、取材したある企業の社長の言葉が頭をよぎる。
冷徹な判断に聞こえるかもしれない。しかし人生100年時代。経営者として自身の今後の人生を考えれば、当然の選択かもしれない。
実は廃業を選ぶ企業の中には、優良企業や、アナログながらも高度な技術を持った企業が少なくない。黒字のうちに、体力があるうちに決断する経営者が増えているのだ。後継者がいない、あるいは後継者候補がいても、継ぐことを辞退される。そんなケースも珍しくなくなった。
「余計なことをしないで」
つい先日もそうだった。ある中小専門家と談笑していると、その人の携帯電話が何度も鳴った。出ても構わないと言った。「もう決めたんです。余計なことをしないでください」という声が漏れてきた。聞くと、声の主は地元では名の知れた町工場の奥さんだという。
廃業してしまうのはもったいないと、後継企業探しに奔走している最中だった。しかし、当事者にとっては「もう決めたこと」なのだ。その人は「本当にもったいない」と、唇をかみ締めていた。
こうした現実を裏づけているデータもある。帝国データバンク横浜支店の調査によると、2025年に神奈川県内で休業・廃業、解散した企業(個人事業主を含む)は4117件。過去10年では2番目に多い水準だ。同年の県内企業倒産件数(法的整理)は559件だったから、休廃業・解散件数は倒産件数の約7.4倍に上る計算となる。
同支店によると、物価高や人件費などのコスト上昇が続く中、経営体力に余裕があるうちに事業を畳むケースが目立つという。
注目すべきは、この4117件という数字の中に「倒産」は含まれていないという点だ。資金繰りに行き詰まって倒れたのではなく、販売不振や放漫経営でもない。自らの意思で静かに閉じた企業が、これだけあるということである。
一つひとつの廃業の裏には長年の技術の蓄積があり、取引先との信頼関係があり、地域の雇用がある。数字に表れない「静かなる撤退」が、各地で確実に進んでいるのだ。
(総合情報誌「ニューリーダー」連載中)



.jpg?fm=webp)

.jpg?fm=webp)

