地域の中小企業は人材を確保できるのか 迫られる働き方の多様性実現と人材定着
取材をしていて、企業が規模拡大をするのは、以前よりはるかに難しくなったと感じる。その原因は働き方の多様化だ。
「地域の飲食業に人は戻らない」
神奈川県内で飲食業を展開する企業の社長は、「もはや地域の飲食業界に人は戻ってこないだろう」とぼやいていた。社長との付き合いはかれこれ10年近くになる。本音で話し合える仲だ。
以前は県内飲食業界をけん引するほどの地元有名企業だった。だがコロナ禍で状況が一変した。数十人のスタッフを雇い続けることができなくなった。周囲の同業者が相次いで廃業する中で、会社をスリム化しながら踏ん張り、コロナを乗り切った。
だが、問題はここからだ。アフターコロナでようやく日常が戻ってきたが、多くの同業者が廃業。宴会などの需要は、残った企業に集中した。かつてなら「うれしい悲鳴」といったところだが、素直には喜べない。人が集まらず、身の丈以上の需要に対応できなくなってきたからだ。
「飲食店での勤務はハードです。これまで慣れ親しんだ人材が、コロナ禍で業界を離れて、別の業種に移りました。 今では、どの業種でも、人材不足のため『未経験者OK』とする企業も多いです。いったん離れた人たちは、働きやすい別業種での居心地のよさを知ってしまっています。だから、もう復帰しないと思います」と社長は明かす。
同じようなことが、建設業など他の業種でも起きている。キツイ・キタナイ・キケン‥。 かつて「3K」と呼ばれた業種に、人は来てくれない。もはや外国人抜きではやっていけない状態だ。あるいは、少ない人数で可能な範囲でやっていくしかない。
「叱らない経営」
今後、人海戦術が必要な業種では、企業として規模拡大を狙うのは難しくなっていると感じている。今や多くの中小企業にとっては新規採用が厳しい分、今いる人材をいかに定着させるかが重要になっているのだ。
こうした中でも人材を確保するため、中小企業は従業員の働きやすさを追求し、定着率を高める工夫を、あの手この手で凝らしている。
業種にもよるが、週休3日や完全リモ ートワークは当たり前。徒弟制度や厳しい現場教育が当たり前だった町工場でも、人材育成方針は変わりつつある。
例えば、神奈川県綾瀬市にある精密板金加工業者は、従業員に対し「叱らない経営」を実践している。社員がミスをしても、絶対に叱らない。
叱られ慣れていない青年たちへの配慮だろう。だが実際には、20~30代の若い社員によって、活気ある現場を実現したという。自己都合による社員の離職も、ほぼゼロになっている。
社長は明かす。「たとえ不良品をつくっても叱りません。仕事でミスをしたら、本人が一番傷ついているからです。むしろ激励しています」







